今年、2017年10月、歌舞伎座の昼の部では、<新作歌舞伎 極付印度伝 マハーバーラタ戦記>が上演されていました。「マハーバーラタ」は、古代ギリシアの長編叙事詩「イーリアス」、「オデュッセイア」と共に世界三大叙事詩の一つとも言われ、サンスクリット語で書かれた古代インドの神話的叙事詩です。この世界最長の叙事詩と言われている作品を、3時間を超える舞台とはいえ、1つの作品にまとめた今回の歌舞伎には、内容を知っている人にも、知らない人にも大きな期待が寄せられていました。
今回、初の歌舞伎化にあたり、原作の長大な物語の中からカルナを軸とした物語に脚本家によってまとめられました。ヨガでもなじみのある「バガヴァッド・ギータ―」のシーンも登場します。チラシの役者さんは、主演カルナを演じた尾上菊之助さんと、仙人クリシュナを演じた尾上菊五郎さんです。不思議とインドの古代の物語が歌舞伎とマッチしていることが伝わってきます。
歌舞伎「マハーバーラタ戦記」を鑑賞した3人のヨガインストラクター、ヨガ講師でもある、ミヤビ先生、ケイコ先生、リー先生に、感想を寄せていただきました。1回目はミヤビ先生。ちょうど急な衆議院選挙の時期に、ミヤビ先生が感じたこととは? 3人それぞれの物語の読み解き方をお楽しみください。
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人は何故生きるのか……ダルマ(道理)を生きる方法論が解かれていた小泉進次郎氏が「将来総理大臣になりたいか」という質問を受けしばらく考えた後、「総理になるかどうかという事じゃなく、日本にはまだまだ伸び代があるからそれを引き出す力になれるよう胆力をつけたい。」というような事を言っていた。
大きくなる人というのは、地位や名誉より自分を成長させる事を常に考えているものだなと思う。そして養ったその力を世の役に立てたいと考えている。
世に名を残す大きな企業の創設者なども皆同じような事を言っている。
先日見た歌舞伎 マハーバーラタは正にそういう話しで、修行をして自らを成長させ、秀でたその力は世のために使う。人間はその為に生まれてきている、と。
主人公のカルナはそのダルマ(道理)に気付き戦いの途中で自らの身を刺し敵を勝たせる。敵のアルジュナこそが世を良くする人であり、世を良くする事が自分の魂の使命だから。
これは武士階級に生まれたという事にも意味がある話なので戦いが舞台になっている。マハーバーラタが生まれたインドの哲学ではどこに生まれたかも重要な意味があり、その持って生まれた条件や環境がそもそも使命を果たす為に用意されたもの(用意したもの)であり、その自分にある特質、性質を、生きるという修行の中で成長させ世に還元する事、それが生まれてくる意味である、と伝えている。
誰しも若い頃、人は何故生きるのか と考える時があると思うけれど、私はそれがずーっと続いてしまい、結局ヨーガに繋がったように思う。そしてその大元であるインド哲学を知ったとき、全ての疑問が解けて楽になった。実践するのが難しくても、どうすれば良いのかの方向性が解ればやるだけなので、そういう意味で楽になった。道理を知る、とはそういう事なんだと思う。ヨーガ哲学にはダルマ(道理)を生きる方法論が事細かに説かれている。
インド哲学なんて学問としたら東大か仏教系の大学にしか学部が無く、仏教系大学ですら専攻者が少ない為に無くなるかもしれないと常に言われている、マイナーでマニアックな学問だけれど、その内容は今盛んに出ているビジネス啓発書やスピリチュアル本やマインドフルネスのその根幹にある生きる知恵そのものなので、大衆演劇である歌舞伎に落とし込まれたのは時代の要請なんだなと感じるし、インド哲学自体もその体裁を変えて現れて身近に触れられる面白い時代になってきたんだな、と思う。
歌舞伎という完全なる美、黄金律とも言える完成された美によって、物語はより人の五感を通して心の深いところに根付いていくのではないだろうか。
寄稿:ミヤビ / 編集:七戸綾子
ミヤビ プロフィール
ヨガインストラクター。ヨガトレーニング講師。ヨギー・インスティテュートでベーシック・トレーニングコース(BTC)、メディテーション・インテンシヴコース(MIC)を担当。
心と身体への興味から中学生の時に独学で瞑想を、高校生の時にヨガの練習を始める。仕事など環境の変化から一時ヨガから離れてしまうが、様々なボディーワークや身体技法に興味を持つうち、再びヨガを学びの基軸とする事を決め、生活の一部とするようになる。アヌサラ、アシュタンガ、パワーヴィンヤサ、シヴァナンダ など様々な流派の学びを経て、現在はアイアンガーヨーガとアドヴァイタヴェーダーンタ哲学を人生の学びの基としている。今後、ヨガという垣根を越えて、本質的なものをもっと深めていきたいと思っている。
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